風俗業を引退して約10年、前職をひた隠しにして生きている。友達とか、弟は前職を知ってるけど、今は隠したほうが得だって判断をしたからだ。
理由の一つは子供。母ちゃんが元ソープ嬢だと知って喜ぶ子供はまず居ない。あとは旦那の会社関係。何かと同僚の方とお付き合いはあるし、出自がバレれば旦那が恥をかく。
他にも色々と細かい理由はあるんだけど、郊外の住宅地で普通のおばさんとして生きていく生活を選んだ。だから絶対にバレるわけにはいかない。
しかも今我が家は近所の鍵っ子達のたまり場。毎日おやつ作って宿題教えてゲームをする。そんなおばさんが元風俗嬢だってバレたら末恐ろしい。親御さんたちが怒鳴り込んで来るかもしれない。
秘密を死守しなければ!朝起きてから眠るときまで頭の片隅にあることだ。でもなかなか風俗感が消えない。ヒヤッとしたことが何度もある。今日はそんなヒヤッとしたことを話そうと思う。
PTAで前職当てクイズ
子供の学校関係は風俗バレ危険度が高い。私は働いてた街の近くに住んでいるから、お客様に会う確率は低くはない。
だから引退と同時に腰まであった髪を切り落とし、服装も全く変えた。この用心はしておいて良かった。同じ幼稚園の父兄の中に上顧客を見つけた日には冷や汗が止まらないけど無視できない。にこやかに挨拶をして世間話をしてもバレなかった。
でもこんなのは序の口。PTA役員の割り振りが地獄絵図。最近の役員分担は前職、または現職のスキルを使って効率よくやりましょう!的な流れだった。それを知らなかった私は前職を聞かれて凍りつく。
「堀内さんはお仕事何されてるの?」「今は無職です」「ご結婚前はどんなお仕事されてたの?」「…」
叫びたかった「プライベートな質問をするなー!!!!!」でもそんな事はできない。かといって、できないスキルの職種は答えられない。ものの0,数秒で決めなくてはならない…
「事務です、事務やってました!」実家が自営業で時々伝票整理を手伝ってるから咄嗟に答えてしまった。Excelも使えないのに事務って(笑)
それだけじゃ済まない。皆で作業しながらの世間話にも危険な落とし穴がボッコボコある。やれパートを始めたいとか、復職したいとかそんな世間話に花が咲く。話してる当事者同士で「〇〇ちゃんはパン屋さんとか向いてそうだよねー」とか話してる分には平和でいい。
それが段々「△さんは介護とか向いてそう!優しいし、親切じゃん!」的に和の外の人間にまで勝手な向いてる職業当てが始まる。
「堀内さんは…堀内さんは…接客業かな?」
まじでバレたと思った。職業ズバリ当たることは無いだろうけど、普通の接客業じゃ収まらない不自然さとか違和感に皆気がついてると思う。
その後も私の結婚前の職業が度々噂になって、時には美容師、時にはアパレル、保険の営業とか接客系の仕事が挙がるんだけど「ちょっと違うかなー?」って事になってるらしい(笑)
飲食業と答えたのが仇になって
PTAの話で少し学んだ私は、結婚前は飲食店で働いてる設定を作った。ソープで働いていた時みたいに、◯年から◯年はどこでどんなバイトをしてみたいな設定を作り込んだ。これなら突っ込んで聞かれても答えられるし、視線の動かし方さえコントロールすれば嘘はバレない。
ありがたいことに用意していた設定を使うこともそんなになく、ママ友も増えて安穏と幼稚園の保護者としてボランティアに勤しんでいた。ところが相手が人間だと急にとんでもない質問をぶっこんでくる。とあるママ友がめんどくさい質問をしてきた。
このママ友Aさん、ご自宅でカフェを開きたい。でもカフェには独立したキッチンを用意しないと許可が取れない、飲食店で働いてたなら何かいい手を知らない?って七面倒臭いものだった。
一旦持ち帰って、飲食をやってる友達にも聞いて一応あるけど勧めない裏技も聞いた。後日Aさんにその話と、裏を必ず取るように伝えたけど返事がおかしい。なーんか心ここに非ずな感じ。
「実はまいちゃんは飲食でもクラブとかそっちぽいから、お仕事のことを聞いちゃダメだって他の人に言われたの…ごめんね!」
あー、やっぱり普通の人と違う漏れ出る風俗感が隠しきれてない。まぁ、風俗じゃなくてクラブならいいか(笑)と開き直らなければ、家を売ってこども達を転校させて限界集落あたりに引っ越してたと思う。
流石にここ五年位はバレたか?ってヒヤッとすることが無くなった。誤魔化す術を身に付けたのと、体の使い方が変わってきた。マットで支えていたいい姿勢はマットをやらなくなったら猫背のおばさん姿勢に固定された。
ただ話し方の癖が抜けない(笑)どんな事でも肯定する。悪いことでも良いことに言い換える。やたら褒める、好きっていう。語尾と大きめの笑顔がセット。せめて目で笑うのを止めようとしたけど逆にできなかった。
とにかく胡散臭いんだと思う。私はナチュラルないい人ではないから、知らない人と上っ面で話すとこのキャラになってしまう。このスイッチを投げ捨てられないと、私は死ぬまで風俗感をダダ漏れにして生きていかなきゃいけない。今40歳手前でも痛いと思うのに、93歳のお婆ちゃんが風俗感漏れ出させてたら痛いを通り越して怖すぎる。
でも今すぐに解決策は思いつかないし、不用意な発言をしないこと、よりおばさんらしく居ればバレにくいんじゃないかな?と希望的観測をすることにしている。それに10年前にいかがわしい仕事をしていたけれど、私という人間がいかがわしい訳ではないし。(そこに関して夫の賛同が得られないのは納得いかないけど)
第一、私が夜職だとか風俗だとか気付く人間はその世界に片足でも突っ込んだ人間だろう。夏休みにキャバクラでバイトしただけかもしれないし、ソープのお客さんだったのかもしれない。結局同じ穴のムジナさん。だから私はそんなに気にしないことにしはじめた。
ただ、意外に思うだろうし矛盾を感じるだろうけど、子供は大人が守ってあげたほうが良いと思う。傷つくようなことは知らせたくないし、できるだけしたくない。だから私は若干猫背をキープして、今日もこども達にクッキーを焼く。
もしこのまま数年過ごすことができて、正しい性教育に関する知識をこども達と話せたら、仕事を隠し続けて心から良かったと思うと同時に、風俗で正しい知識を身に付けて良かったと思えるんじゃないかな、と思う。
引退しても風俗感は消えない。見る人が見ればわかる。隠せない。でも、隠せない事を嘆くだけじゃやりきれない。風俗感が付きまとっても、働いてたおかげでできることさえ見つけられれば、業界に身をおいた事を必要以上に後悔しなくてもいいし、悲壮感も出ない。
今日も漂う風俗感を隠しながら、郊外で明るいおばちゃんとして生きている。